いつ我が身に降り掛かるか計り知れない災害。突如襲ってくる災害時に、私たちは何を食べて命をつなぎ、そこから未来を切り拓いていけばいいのでしょうか? 日本列島を震撼させた19年前の阪神淡路大震災も3年前の東日本大震災の時も、食の問題は被災者にとって最重要課題でした。これらの被災経験から明らかになってきたことは、長期に及ぶ復興のプロセスでは、命をつなぎとめる食と、未来に向かって心身にパワーを与える食の両方が必要だということです。 今回の「こどもBOSAIラボ」はこのように重要な役割を担う食という観点から、子どもたちと一緒に「命をつなぎ、心と体を元気にするBOSAI食」についてリサーチするという試みを行いました。(※BOSAI食についての詳細は、NHK「シンサイミライ学校」のこちらの映像をご覧ください。 https://www.nhk.or.jp/sonae/mirai/program_cafe/index.html) 3月2日と3月9日に開催された「こどもBOSAIラボ」は、心身を元気にするBOSAI食を探求し、その結果を他の人とシェアするという2日間のプログラムです。 ラボの子ども研究員として、大阪市立本田小学校と三軒家西小学校の2校から8名の子どもたちが集まってくれました。今回のミッションは「心と体が元気になるBOSAI食を実験を通して考案し、他の人たちに実験結果を伝え広めるということ」 実験に取りかかる前に、災害後すぐ必要となる「非常食」についてのレクチャーを受け、家に普段から備蓄しておく非常食の種類や量を学びました。次に、長期化する復興生活においては命をつなぐ非常食だけでは十分でなく、蓄積される心身の疲労を回復させ、心と体を元気にする食が強く求められるということを確認しました。そこで、インスタントラーメンやアルファ化米のような命をつなぐ「非常食」、乾物や調味料のほか、干したり漬けたりして作り置きする「保存食」、「種」から育てる野菜を組み合わせて作る「BOSAI食」という新たな食のあり方を学びました。 BOSAI食の果たす役割を確認したところで、BOSAI食の一種である「タネだんご」と「めしのタネ」を作ることを通じて美味しくて心身にパワーを与えるBOSAI食を探る実験が始まります。 子どもたちがはじめに挑戦するのは「タネだんご」作り。タネだんごとは、10種類以上の種と土と粘土を混ぜ合わせて作る団子のことです。災害のとき、このタネだんごを蒔いて育てれば、非常食だけでは補えない生の野菜やハーブが持つ食感や香りを食事にプラスすることが出来ます。雨水のみで蒔いた土地に適応した種だけが育つタネだんごは、災害時の野菜の確保に最適であり、心身を健やかな状態に導いてくれるといえるでしょう。 タネだんごの材料と作り方はとてもシンプルです。 10種類以上の種と土と粘土を、1:5:12の割合で混ぜ合わせ、水を少しずつ加えながらひとまとまりにします。全体が混ざったら、1cm大の大きさに丸めて乾燥させて保管します。子どもたちも育ててみたい種を選び、タネだんご作りに集中していました。どんな野菜が育ちやすいのか、蒔いてから観察して実験結果をぜひ知らせてもらいたいと思います。 タネだんごづくりを終えるとお楽しみの昼食です。 ただし、この日の昼食でも子どもには研究員としてのミッションが課せられました。 昼食のミッションは「冷たくて固いおにぎりを美味しくしよう」というもの。 被災地では、冷たくて固いおにぎりを食べて命を繋ぐ人々の姿がありました。そんな中、要望として聞こえてきたのは「温かくて心と体があったまる食事がしたい」という声でした。子どもたちには、このリアルな思いに共感してもらうため、まずは冷たいおにぎりを食べてもらい、そこで体感したことをもとに、心と体が元気になる要素を実験的に検証してもらうことにしました。 冷たくて固いおにぎりを食べた際、口々に「まずい、かたい、もう食べたくない」というネガティブな言葉を発していた子どもたち。そこに、用意されたのは味噌と多種多様な乾物という保存食。子どもたちはこれらを使っていかに美味しくするかという試行錯誤の実験をスタートさせました。出汁を取り始める子どもや、乾物のラーメンや調味料を加えて、「味」、「香り」、「食感」、「栄養」、「温度」という5つの項目でどのような変化が起こったかを客観的に捉えていきます。少しの工夫で食べ物が全く違うものに変化し、美味しいという感情とともに心身にパワーがみなぎってくることを経験した子どもたちの表情はとてもイキイキとしていました。 さて、リアル防災食体験の昼食を終えた子どもたちが次にチャレンジしたのは「めしのタネ」作りです。めしのタネとは、調味料や乾物などの保存食だけで作ることができる美味しい食べ物のことです。ここでのミッションは、ベースとなる高野豆腐、薄力粉にそれぞれの調味料と乾物を加えるだけで美味しくなる「マジックパウダー」を考案して、心と体が元気になるめしのタネを作ること。 マジックパウダーを作る材料として用意されたのは24種類の調味料や乾物です。それぞれの組み合わせによって、スイーツにもオカズにも自由自在に変化するめしのタネ。24種類の選択肢の中から5種類を選び、被災地で過ごす時に起こる心身の不調に効くパウダーを作ります。 昼食時に感じた、「味」「香り」「食感」「栄養」の基準に照らしながら、トライアンドエラーを繰り返し、ベストなパウダーを作っていきます。 長期的に集団生活を強いられる被災地では、免疫力が落ちたり便秘や睡眠不足になったりといった体の不調や、喪失感や不安感などという心の不調が被災者を襲います。そんなときにこそ心身の回復に効力を発揮してくれるようにとの願いを込めて、子どもたちはどのような症状に対してマジックパウダーが効力を発揮するのかということを考え、パウダーに名前もつけました。 日常的に家に備蓄している保存食の組み合わせを工夫するだけで、人を元気にする食へと変化させることができることを、実験によって明らかにした子どもたちの実験結果は、3月9日(日)に大阪の津波高潮ステーションで開催される防災イベントにて発表されます。 BOSAI食にまつわるものが展示される「展示ブース」と、実際にマジックパウダーを作ってめしのタネづくりに挑戦できる「実験ブース」が用意されています。お近くの方はぜひお立ち寄りください。

