Daily Archive: 2015年8月14日

Aug 14 2015

ライフシードラボ in 湘南 〜ハンバーガーであなたもサイエンティスト〜

2015年7月24日(金)から3日間にわたって開催されたLife Seed Labo夏期プログラム。このプログラムでは「ハンバーガーであなたもサイエンティスト」をテーマにハンバーガー作りを通してハンバーガーのおいしさのヒミツ・フシギ・ヒケツを科学的に解明します。ただ単に知識を植え付けるのではなく自ら実験して食べることで体験が学びへとつながり勉強がもっと楽しくなるはず!最終日においしいハンバーガーを食べるために試行錯誤した3日間の様子をレポートします。 場所は、サスティナブルなスマートタウンの生活スタイルを提案する湘南T-site内にあるFERMENTです。FERMENTは食とものづくりスタジオで、デジタル工作機器を自由に利用でき、デジタル家電などが揃ったシェアキッチンが組合わさったオープンスペース。そんなスマートシティならではの農と食のプログラムを展開できればと思っています。 7月24日(金)1日目:野菜のカタチとおいしさのヒミツ —————————————————————————————– シャキシャキでみずみずしい野菜にするにはどんな切り方をしたらいいのでしょう。机に並べられたのはレタス、トマト、キュウリ、タマネギ。どれくらいの水分が野菜に含まれているかを測るにはどうしたらいいかをみんなで考えます。もちろん、野菜に突き刺して何秒でピピッと計測する水分量計なんてものはここにはありません!でも、そんなことしなくたって実はいいセンサーをみんな身体の中に持っているのです。そう、それが「口」です。食べて感じたことは主観だけれど、例えば「一番柔らかいを’1’、石のように硬いを’5’として指標を作れば食感や水分の出方を数値に表すことができるのです。 それぞれの野菜はどれくらい水分を含んでいるかを味見で確かめたあと、今度は野菜を切ってみます。野菜には繊維というものがありそれは私たち人間の身体でいう血管です。血液を通して栄養を身体中へ運ぶのと同じように植物も繊維を通して養分や水分を茎や葉へ運ぶのです。では食べるときはどうでしょう。繊維に対して垂直に切るか、水平に切るかで食感と水分に違いはあるのかを考えながらざくっざくっと小気味良く音を響かせながら野菜を切っていきます。   思い切って半分に割ってみた者、そおっと薄い輪切りに挑戦してみた者、それぞれが切った野菜からは断面のカタチのサンプルができあがりました。それぞれの断面を並べてみるとまったくカタチが違います。そもそも、いつも食べている野菜の部分は植物としての「実」、「葉」、「茎」のどれなのか。実は野菜には水分を多く含むことによって種を守る実ものと厳しい環境から大事な水分と栄養を蓄えるために何層にも重なり結球する葉ものとに分けられま す。それぞれの植物としての構造を知ることが実はおいしいシャキシャキ野菜のヒミツだったのです。 7月25日(土)2日目:変化するお酢のフシギ —————————————————————————————– マヨネーズとピクルス。ハンバーガーの味を決める二つの調味料には実はあるフシギな関係があるのです。 初日に引き続き2日目もまずはテイスティングから。出されたのはレモン。ほんのちょっと齧っただけで「酸っぱ〜い!!」そう、酸っぱいということは酸が関係しているのです。 そこでほかにも酸っぱいと感じるお酢やジュース、またハンドソープや台所洗剤といった身の回りにある液体を酸性の度合いを測るph試験紙で測定してみることにしました。ここで理科の話をすると、物質が水に溶けたものを水溶液と言いその性格はすべて酸性かアルカリ性に別れます。実験の結果では見事に酸性よりのものとアルカリ性よりのものとに別れました。 しかし、変色の具合を肉眼で確認するPH用紙の性質上、同じPH3と測定しても実際には同じ性質ではありません。そこでより正確に測れる酸度計を使ってみると5つのサンプルを酸性〜アルカリ性に並び替えることができました。     では、いよいよ「酢」を使ったピクルスとマヨネーズ作りの開始です。空気中の細菌はタンパク質でできていて酢にはタンパク質を変性させる働きがありるため強力な殺菌作用があるのです。例えば、酢飯は普通のご飯の三倍も長持ちするそうです。この作用を利用して野菜を長期に渡り保存しておけるようにしたのがピクルスです。 酢で保存する仕組みを理解したら、漬け込む野菜をカットします。どうやったら味が染み込みやすいか、見栄えがよくなるかをよく考えて野菜を切っていきます。計量した酢、砂糖、塩を混ぜ、さらにハーブを加えたピクルス液を鍋で一煮立ちさせた後、野菜を詰めた瓶に注ぎます。こんなに色鮮やかなピクルスを作ることが出来ました!   一方、マヨネーズ作りはというと・・・実はここにも酢と油の秘密が隠されています。水と油は混ざらないという説が本当に正しいのか実際に身体を張って検証することに。ペットボトルに入れた水と油を全力でシェイクするとできたのは振る前とは違う乳白色の液体。水と油は果たして混ざったでしょうか。 答えは、いいえ。実はこれ、一見して水と油が混ざったように見えますが時間が経つと分離して元に戻ってしまいます。しかし、ここにある特別な性質を持つ材料を加えて同じように中身を撹拌させると今度は正真正銘、水と油が混ざった状態を作り出すことができるのです。その正体こそマヨネーズの発明にいたったあの食材です。   あの食材とは卵のことでした。卵こそ水と油をくっつける働きのある特別な作用をもった物質です。卵は乳化剤と呼ばれ、今回の実験のように本来混ざり合わない性質を持つ二つの物質をくっつける働きがあり、その作用を乳化と言います。ほかにも、パスタを茹でる時に麺から出た成分(乳化剤)がソース(油)とパスタ(に付着する水分)を混ぜ合わせる作用も同じ乳化の現象です。 卵に調味料と酢を加え、そこにサラダ油を垂らします。そして撹拌してみるとほんの数十秒ほどで混ざり合わさった液が白く濁り始めました。これが乳化の起こった証拠です。卵+油+酢という組み合わせなのにドロリとした粘性を持つマヨネーズが完成しました。いつも食卓に出てくるマヨネーズがこんなフシギな反応によって作られていることを実験により知った私たちはまた一歩サイエンティストに近づいたようです。 7月26日(日)3日目:ウマイ肉のヒケツ ————————————————————————————— さて、いよいよこれまでの研究の成果をハンバーガー作りに生かす日がやってきました!ジューシーなお肉はハンバーガーの最大の魅力。肉汁がしたたるウマい肉の秘訣に迫ります! 期待に胸を膨らませた皆の前に出されたのはなんと冷凍されたお肉!「あれ〜解凍しなきゃ食べられないじゃないか〜!」とブーイングが飛びます。そうなんです。最終日のテーマは「冷凍された肉をいかに美味しく解凍できるか。」 用意したのは異なる材質の4枚の板。この上に冷凍肉を乗せて置いておくと、どの板の肉が最も早く解凍できるでしょうか。実験に移る前にまず仮説を立ててみます。子どもたちは口々に自説を述べます。さあ、実際に早く解凍するのはどの肉なのか、同時に板の上に冷凍肉を置いて実験スタートです。 三日間で学んだことの一つは実験の際に条件を揃えることでした。本当に知りたいデータだけ差異が出るように他の要素はなるべく同じ状態にします。秒数をそろえて肉は板の真ん中に。 実験では5分ごとに異なる性質の板の上の肉の温度を測ります。お肉の重さ、面積は同じなのに板の種類によって溶けるスピードが違うのは実は4枚の板の熱の伝導率が異なることが原因です。熱の伝導率とは熱が物質に伝わる速さのことです。 5分ごとの温度の記録を折れ線グラフにしてみると驚きの結果が出ました。なんと大半の冷凍肉の温度が順調に上がる一方、途中で温度が下がっている点があります。実はこれは途中で温度計の計測位置を変えてしまったからなのです。本来ならばここで実験は失敗です。すべて同じ条件で測るからこそ温度の変化のデータを比較できるのです。しかし意外なことに付き刺す位置を変えたことで肉の部分によって温度差があることが分かりました。もしかしたら科学の発見はこういう偶然に支えられているのかもしれませんね。 次の実験ではアルミ、銅、ステンレス、テフロン加工のステンレスの4種類を用いてそれぞれ肉を焼きます。注目するのはハンバーグの肉汁をできるだけ流れ出さずに留めること。ここでも各自の予想を元にフライパンの種類を選び実験スタート。 焦げ付くのが早いものとそうでないもの、肉汁をしっかりキープしておけるフライパンの答えが分かったところでいよいよ自分たちが食べる分の肉を焼きます。 ここまで本当にみんなお疲れさまでした、たぶんハンバーガーを作るのにここまで時間をかけた人はいないでしょう。しかし三日に渡り検証を繰り返した素材を使ったハンバーガーは格別の味がすることでしょう。また、それぞれの過程でなぜ美味しくなるかをしつこく考えたことで、お家に帰ってもあの味を再現できるはずです。