冬晴れに恵まれた12月22日、穏やかな空気に包まれていつものようにライフシードラボに子どもたちの声が響きます。 冬の寒さに負けず元気に成長していく子どもと野菜には、清々しさと逞しさという共通点を感じます。 早速、ガーデンでは前回作ったまほうのスプレーを元気のない野菜に振りかけていきます。前回からちょうど3週間がたったまほうのスプレーの中では、乳酸菌、納豆菌、酵母菌がぐんぐん増殖し、菌の王国と化していました。その証拠に、まほうのスプレーボトルの中で菌が発酵してガスが充満し、少し吹きつけるだけで勢いよく液体が噴出してきます。このスプレーがある意味爆弾化するのも、生きた菌で出来ているまほうのスプレーならでは。目には見えないものの作用を感じながら、菌や小さな生きものと野菜へ想いを馳せる時間は、きっと子どもの想像力を掻き立ててくれる時間となることでしょう。 まほうのスプレーの威力の程は、また時間をおって検証することになりますが、きっと発酵の力により土の中の病原菌をやっつけ、しおれかけている植物たちに元気を与えてくれると期待しています。 さて、今回のガーデンでのテーマは「栄養たっぷりの肥料をつくろう」 ゴミとして扱われたり、見向きもされないような落ち葉や枯れ木などと、邪魔なものとして刈り取られてしまう雑草。実は、これらは非常に大切な資源であり、野菜を作っていくものにとっては欠かせない宝のような存在です。というのも、この茶色い材料(落ち葉、枯れ木など)と緑の材料(雑草、生ゴミなど)はそれぞれに窒素と炭素を含み、それらを交互に重ねて空気を適度に入れて発酵させると、自然素材の堆肥となります。 今まで気にもとめなかったものや捨てていたものが、資源としてリサイクルされていく過程を学ぶことは、人が自然と調和しながらサイクルをなしていくことができることを子どもたちに教えてくれます。 子どもたちに、自然の肥料作りに緑と茶色の材料が必要だということを告げ、材料探しがスタートします。前回習ったタイマーで、材料集めの時間を計るのもお手の物! 資源という視点を手に入れたあとにガーデンを見渡すと、今まで何の魅力も感じなかった落ち葉や雑草が、みるみるうちに輝くお宝のように見えてきたのか、子どもたちはあっという間にカゴいっぱいの材料を拾い集めてきました。こういう場面をみると、子どもたちは本当に宝探しの名人だとしきりに感心してしまいます。 拾い集めた材料は、微生物が分解しやすいように切断機でバッサリと切って細くしていきます。細かくなった緑と茶色の材料を交互に重ね混ぜていき、水分を加えて発酵させて堆肥にしていきます。土からできたものを再び土に還して、循環させていく。この資源の循環の手順を学ぶことで、環境に働きかける方法の選択肢を子どもたちに示せたのではないかと思います。 この日、肥料を作ることを学ぶに際して、とびきりスペシャルなゲストを連れてきていました。そのスペシャルゲストとは・・・ なんと、ミミズ!!! ミミズと聞いて逃げ出す子がいる一方、興味津々で近寄ってくる子もいて、子どもの反応も十人十色。 ミミズは東京大学先端科学技術研究センターのミミズコンポストで飼われているもので、日々の生活の中で出てくる野菜くずをあげながら育てられている。ミミズは野菜くずを飲み込む過程でその中にいる微生物から栄養を吸収し、飲み込んだあとに出したウンチとおしっこにはさらに8倍もの微生物が増えています。その微生物が作物の成長を助けたり、土の中の栄養分を根が吸収しやすいように調整してくれるため、野菜の成長にはもってこいなのです。 恐る恐る匂いを嗅いでも、大丈夫!臭くないでしょ!?完全に分解されているミミズのおしっこは無臭なのです。小さなミミズと微生物のコラボレーションがなせる技に圧巻です。子どもたちも驚きで目を白黒させていました。 自分たちが食べられなかった野菜くずをありがたく受け取って、栄養たっぷりの肥料に変えるというミミズによる錬金術。この素晴らしい過程にミミズが媒介していることを知ることは、自分たちが小さな生き物の偉大な力に影響を受けながら生きているという事実に気づかせてくれます。多様な動植物、目に見えない菌、空気、水、色々な要素が複雑に絡みながら、それぞれの役割を果たし、自分たちが生きていることを感じる瞬間が少しでもあれば、子どもたちの環境への働きかけは自ずと変化していくのではないでしょうか。そして、学び場がガーデンだからこそ、大地を豊かに変えていくための地球のレシピが学べるのでしょうね。 衝撃のミミズのおしっこの興奮冷めやらぬという雰囲気の中、始まったキッチンでのテーマは「美味しい日本語をリサーチしよう」。子どもたちには、「鍋の材料をリサーチし、味や食感を報告しよう」というミッションが出されました。 メールで送られてきたシートには、何やら見たこともないような難しい漢字がいっぱい。 菠薐草、薯蕷芋、青梗菜、大蒜、滑子、占地、饂飩、鰹、蕪、榎… どうやら今日のメニューの鍋の具材のようで、これを解読しないと鍋の材料をもらえないとのこと。具材をもらえないと聞いた子どもたちは必死で、iPadを駆使して漢字の読み方を探ります。UPADというアプリを使い、iPadの手書き入力と辞書を使って次々と漢字を読み解いていく子どもたちに、大人の方がタジタジで、「そんな読み方をするのかぁ」と唸るばかりです。このように、漢字の読み方や意味がわからなくても、入力方法を工夫したり、辞書を有効に使うことで、知らない漢字へアクセスして自らの学びへと繋げていくことができますね。 今回のメニューは鍋。ただし、ただの鍋ではありません。大和魂を込めた本気の鍋です! ということで、 日本人のDNAに刻み込まれている和食に欠かせない出汁の旨みを十分に堪能するために、鰹節について学ぶところから鍋作りはスタートします。鰹の背中側を削ったものを「雄節」、お腹側を「雌節」と区別して名づけ、それぞれの特性に応じて使い分けて料理を作るという日本人ならではの繊細な気質について学んだり、戦国時代は鰹節のことを「勝男武士」といって兵糧攻めに備えて験担ぎに非常食として備蓄したという話や、雄と雌が揃う形が亀の形に似ていたりすることからかつては結婚式で縁起物として重宝されたという日本の習わしや文化にも話が及びました。 日本の気候と風土に応じて、先人たちが知恵を絞って編み出してきた和食の基本となる鰹節も昆布も、現代では身近な存在ではなくなってしまいました。流通や文化の変遷を経てもなお、今に引き継がれている温故知新の味を求めていく時間を持つことは、日本の歴史を学ぶことでもあり、その中で培われた日本人らしい感性を体感することでもあると思います。 この日、子どもたちは鰹節を自分たちの手で削り出汁をとりました。鰹節を削り器で削りながら機能的な道具の成り立ちに感動したり、削りたての鰹節の香りに食欲を掻き立てられたり、、長い時間かけて発酵してきた鰹節だからこそ出せる奥深い味に神経を集中させたりしながら。このプロセスを丁寧に体験することを通して、手間をかけて作った料理がなぜ美味しくなるのか、子どもたちそれぞれが自分の感性で受け取って消化してくれたのではないかと思います。 何度も何度も味見を重ねて、チームごとの味を決めていく中で、自分の感覚と他人の感覚をすりあわせていくことも「食べ物」だからこそ平和的にできるのかもしれません。決まった分量をレシピ通りにつくっていくことから解放されると、人はもっと自由な創造性を発揮し、自らの五感を研ぎ澄ませて目の前の食材と対話するような料理をはじめる。そんなクリエイティブな料理との関係を子どもたちが楽しんでくれる機会をたくさん持てるような場所を作っていきたいなと思います。 鍋が完成する頃には日も沈み、気温もぐっと下がっていましたが、冬の寒い日に一つの鍋を囲んでああだこうだ言いながら仕上げた時間が、子ども同士、地域のシニアボランティアさん、親御さん、スタッフたちの距離をグッと縮めてくれるような心あたたまる時間を紡いでくれたように思います。色んな意味で具だくさん、もりだくさんの鍋でした。

